半導体の命運を分けた男らしさ

半導体は自動車、パソコン、携帯電話、家電など多くの製品を動かすために不可欠な部品であり、生活を支える製品に欠かせない業界です。

今回は半導体の成り立ちから始まり、AMD・インテル・TSMCといった業界をリードしてきた企業の歴史にも触れながら、半導体業界について紹介します。

 

目次

  • 半導体とは
    • 半導体の作り方
    • 半導体製造企業の分類
  • 真の男はファブを持つ
  • 半導体製造は激変を迎えている
  • 米アマゾンをはじめ、主要ITがAMDを採用
  • ファブ(工場)を持つ時代は終わったか?
  • 環境の変化を経て、マーケットはファブレス優位の展開に
  • マクロ環境の変化がインテルの勝機となるか?

 

そもそも半導体とは何か?

株式市場を見ていると、半導体業界はたびたび話題になりますが、製造方法について理解している方は少ないのではないでしょうか。以降では、ステップに分けて半導体の製造方法について見ていきます。

 

半導体の製造法は大きく5つのステップに分けることができる

 

STEP1 シリコンウェハーを製造

シリコンウェハーとは、超高純度のシリコン(金属ケイ素)、をサラミのように薄切りにしたものであり、この輪切りのシリコンが、半導体の基盤になります。

STEP2 フォトレジストを塗る

シリコンウェハーに酸化膜をつくったのち、フォトレジストと呼ばれる感光剤をウェハーに塗りつけます。

STEP3 露光

次にフォトマスクという、作りたい半導体の回路のパターンが描かれている透明なガラスで出来た元版を用意し、ォトマスクの上から特殊な光を照射すると、フォトマスクに描かれているパターンが光を通じて感光剤を塗ったシリコンウェハーに焼き付ける。この際、レンズを用いることで、フォトマスクのパターン型を縮小して、所狭しと基盤上に焼き付けます。

STEP4 エッチング

次にエッチングというフェーズに入り、基盤に焼き込まれたパターンを今度は薬品を用いて溶かすことで、実際の回路が出来上がる。

STEP5 検査

最後に入念に検査が行われる。

 

※画像はnewspicksより引用

 

半導体製造企業の分類

上記のように半導体の製造にフェーズがあるのと合わせて、半導体製造に携わる企業も3つに分類できます。

 

①「ファブレス」:自社で設計のみをして製造を委託する

企業例) NVIDIA、ARM、クアルコム、AMD、ハイシリコン

②「ファウンドリ」:自社で設計せず、製造のみをする

企業例) TSMC、UMC、SMIC、ASML

③「IDM」:垂直統合により自社で全てを完結させる

企業例)  インテル、サムスン

 

真の男はファブを持つ

ここからは、半導体業界の変遷について具体的な事例を見ながら見ていきます。

 

米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の創業者ジェリー・サンダース氏はかつて、「真の男なら工場を持っているものだ」と語りました。半導体製造において、自社で工場を保有してビジネスを展開するのが主流だった時代があったのです。

 

その代表格が米インテルです。インテルは先の分類でいうところのIDM方式を取り、30年余りにわたり、半導体製造で支配的地位になりました。また、今では代表的なIDMとしてインテルやサムスン電子が挙げられますが、1990年代は日本企業が半導体業界で覇権をとっていました。1980年代から1990年中頃にかけての日本の半導体メーカーはすべてIDMで、世界の半導体売上高トップ10社の半数程度に名を連ねていました。

 

半導体製造は激変を迎えている

変化のスピードが著しい半導体業界において、現在の業界のあり方は1990年代からは大きく変わろうとしています。インテルの元ナンバー2で現在は新興企業アンペアを率いるルネ・ジェームズ氏が「今は50年に1度の状況だ」と述べているほどです。

 

1990年代以降、半導体集積回路の微細化が進むに連れて、半導体工場の建設に莫大な投資が必要になりました。それに応じて、IDM方式に対して、ファブレス・ファンドリーと呼ばれる水平分業型のビジネスモデルが出てきて、状況が変わってきました。

ファブレスとは、fab(fabrication facility、製造工場)を持たず、製造はファンドリーに任せ、半導体の設計とマーケティング、販売のみを行なう企業(あるいはビジネスモデル)です。現在の代表的なファンドリーとしては、TSMCがあり、ファンドリービジネスの50%以上のシェアを持っています。

TSMCは1987年、自前の設備を建設する資金がない企業向けに受託生産方式で半導体を量産するために設立された台湾の企業です。コスト面の考え方の変化で半導体製造の状況は一変し、企業は相次いでTSMCに生産を委託するようになり、今や半導体製造業界の頂点をかけてインテルに挑戦するまでに成長したのです。TSMCはアップルやクアルコム、AMDなど大手テクノロジー企業から、アンペア・コンピューティングなどのスタートアップにいたるまで、多くの顧客を抱えています。

TSMCの取引先であるAMDも、業界の変化の中で企業の在り方を変え、成長を遂げた企業の一つです。AMDもかつては自社で製造工場を保有していた持っていました。しかし2012年、自社の製造部門をGlobalFoundriesという別会社に分離し、AMD本体はファブレスになりました。製造プロセスを構築してもインテルから見ればずっと周回遅れで、プロセスではIntelに性能で勝つのは困難であったためです。

 

AMDは最近、最先端プロセッサーの生産委託先にTSMCを選びました。こうした部品の受託生産が爆発的に増加したことで、TSMCは小型で高効率、高性能の半導体の量産に必要な技術的ノウハウを蓄積しています。

 

米アマゾンをはじめ、主要ITがAMDを採用

チップメーカーのAMDはCPUやGPU、カスタムSoCのほとんどを、世界最大の半導体ファウンドリであるTSMCで製造しており、AMDはTSMCの2021年度の収益シェア第2位に躍り出ています。

 

AMDが設計し、TSMCが製造する部品を利用する企業の一つが、米アマゾン・ドット・コムです。アマゾンは、クラウド・コンピューティング・サービスで重要な役割を果たす部品について、米インテルへの依存度軽減へ大きく前進しています。

 

クラウドサービス最大手でもあるアマゾンは2021年11月26日、TSMCが製造を手掛ける独自のサーバープロセッサがクラウドサービス「EC2」の新バージョンをサポートすると説明しました。これまでアマゾンを含む大手のクラウド業者の多くはインテルが製造する部品を使っていましたが、今回はTSMC製を採用しています。アマゾン ウェブ サービス(AWS)のマット・ガーマン副社長は、TSMCの製造技術力がなければ、アマゾン単独では実現できなかっただろうと語りました。

 

ウェルズ・ファーゴのアナリスト、アーロン・レーカーズ氏はレポートで、新サービスはインテル製半導体を使うよりも最大45%割安になると試算した上で、「これにより、アマゾン・ウェブ・サービシズ(AWS)のクラウドにおけるインテルの地位は競争面からさらに疑問視されるだろう」と指摘しています。

 

AMDベースのメモリは、AmazonのAWSだけではなくMicrosoftのAzure、Google cloudでも使用されており、アナリストの指摘と同様、インテルの地位は着々と危ぶまれていると言えるかもしれません。

 

ファブ(工場)を持つ時代は終わったか?

AMDが設計するメモリのシェアは拡大しています。転機が訪れたのは、AMDがファブレス企業に転身したからではないでしょうか。もともとはAMDもIDM型でしたが、自社工場を米GlobalFoundries(グローバルファウンドリーズ)に売却してファブレスになってから、同社の経営は身軽になったと言われています。

 

事実、GlobalFoundriesが7nmプロセス(CPUの製造に使う、レーザー鉛筆の細さ)の開発を断念した際

GLOBALFOUNDRIESが数十億米ドルの投資をしている間に、TSMCやSamsungは数百億米ドルの投資をしていた。

 

AMDは発注先をTSMCに切り替えることで難局を乗り切ることができました。

これはまさに、ファブレスの強みを活用した結果と言えるのではないでしょうか。

 

また、Researchによれば、。「IDMにこだわるインテル 対 ファブレスの強みを生かすAMD」という対立がPC市場・サーバー市場で発生し、戦略上優位に立つAMDが両市場でシェアを伸ばしつつあるようです

 

株式市場を見ても環境の変化を経て、マーケットはファブレス優位の展開に

以降では、半導体業界の変化がマーケットにどのような影響を与えたかについて見ていきましょう。

 

「ファブレス」・「ファウンドリ」・「IDM」は事業の観点と同様、株価の観点でも命運を分けました。

 

※画像はBloombergより引用

※2022年7月29日時点の直近1ヶ月利回り

 

IntelとAMDは攻守交代を繰り返してきた歴史がある

CPU市場は全半導体市場の中でもひときわ規模が大きいです。その中でも、全世界のパソコン、サーバーのほとんどが使用するx86プロセッサーの市場は規模も大きく利益率も高くなっています。

 

この市場は、AMDとIntelの2社で構成する複独占市場です。つまり、AMDとインテルは常にシェアを分け合っており、片方シェアを上げれば片方はシェアを落とす状態になっています。この市場シェアの奪い合いは両社の製品力に直結しており、常に綱引き状態となっています。

 

注目される点はAMDがパソコンとサーバーの両方の市場で、かつ製品ミックスで高価格帯も低価格帯も万遍なくIntelとのギャップを埋めつつあることです。これは以前のAMDがIntelのブランドと技術力によって結局低価格帯に押し込まれていた状態とかなり異なる様相で、AMDの製品力の飛躍的向上とIntelの度重なる失敗が関係しています。

 

最先端プロセス開発で台湾TSMCに先行され、自身のプロセス開発の遅れがCPU出荷に大きく影響するなど、Intel自身の下振れがAMDのシェア増加に繋がり、ここでも「IDMにこだわるインテルIntel 対 ファブレスの強みを生かすAMD」の戦略上の違いが見える。

 

マクロ環境の変化がインテルの勝機となるか?

ここまではAMDが優位な状態になりつつある点について見てきましたが、最後にインテルの逆襲の可能性について見ようと思います。

 

インテルは、最先端製造技術において、TSMCや韓国のSamsung Electronics(サムスン電子)と比較し、技術開発と量産適用の両面で後じんを拝しています。

 

ただし、最先端チップの開発と製造でつまずいたとはいえ、Intelは現時点でも世界シェア1位の半導体メーカーであることに変わりはありません。その基本戦略の路線変更は、供給不足の常態化懸念、生産地域の集中による地政学的リスクなどが半導体業界の技術開発トレンドや市場の発展に、少なからず影響を与えることになるでしょう。

 

インテルにチャンスをもたらすトリガーは2つ考えられます。

1つ目は台湾有事です。仮に台湾有事が起こった場合、TSMCが地政学的リスクに晒され、米AMDや米NVIDIAなど有力なファブレスメーカーが競合であるIntelに製造委託する可能性も考えられます。

 

2つ目は米国の国策です。米国連邦議会上院は7月27日、半導体R&D補助金(7兆2000億円)法案を可決し、下院も通過し、週明けバイデン大統領が署名しました。

これまでインテルやTSMC、韓国サムスン電子が米国に先端半導体の工場建設を表明しており、すでに一部は建設が始まっている。米国が本気で半導体育成に取り組み、米国は出来るだけ自国で研究開発から製造まで行おうとしています。そのため米国企業であるインテルは優位に立つように思う。どちらにせよ、今後も半導体業界の行方には注目です。

 

※下記銘柄はSTREAMでお取引可能です。

ICE半導体インデックス(SOXL,SOXS)、インテル、AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ) 

 

※Bloomberg、日本経済新聞、日経XTECH、各種報道を基に筆者作成

 

米国株のお取引方法は、以下リンク先のページをご参照ください。

https://smartplus-sec.com/stream/service/products/us-stock/

 

商号等:株式会社スマートプラス

金融商品取引業者:関東財務局長(金商)第3031号

加入協会:日本証券業協会・一般社団法人日本投資顧問業協会・一般社団法人第二種金融商品取引業協会

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