水際対策緩和 ~ 日常は元に戻るのか
新型コロナウイルスの水際措置が10月11日から全面的に見直され、ようやく訪日旅行が本格的に動き出します。この記事では、今回の方針変更が株式市場に与える影響について、見ていきたいと思います。
この記事のポイント
- 完全な規制緩和はまだ先か
- 一足先に規制緩和を行った観光大国フランスはコロナ前の水準へ
- 日本のインバウンド完全復活は中国がカギを握る
- 米国株からみるアフターコロナ銘柄
規制緩和の流れ
今年に入り、新型コロナ対策の水際対策は徐々に緩和されていきました。ここでは時系列で変化を振り返ってみようと思います。
■2022年6月10日〜
・入国規制緩和の第一段階として、約100カ国からの入国者数(観光含む)を一日2万人を上限として6月10日より受け入れることが5月26日に発表されました。
・それまで必要だった3日間の待機がワクチン接種を条件に不要となりました。
・添乗員付きのパッケージツアーに限定、民間医療保険に加入、ビザの取得、出国72時間以内にPCR検査をする必要があるなどの多数の制約が依然として残りました。
■2022年9月7日〜
・入国規制緩和の第二段階として、全ての国・地域から入国者数を一日5万人を上限に受け入れるようになりました。これにより、上限が2万人から5万人に引き上げられ、対象国・地域の制限も撤廃されました。
・それまで必要とされていた出国前のPCR検査や予約も必要なくなり、添乗員なしのツアーも認められるようになりました。
■2022年10月11日~
以下の3つの変更が決定しています。
・個人旅行の解禁
・ビザ免除措置の再開
・すべての人・帰国者の入国時検査廃止(ワクチン3回目接種証明または海外出発前72時間以内の陰性証明が条件)
観光客数30年連続で世界1のフランスの現在
他国はどのような方針で水際対策を行っているのでしょうか。ここではフランスの事例を見ていきます。
・フランスでは8月1日に新型コロナウイルス感染症の特例措置を終了する法律が8月1日に施行されました。これにより、これまで医療機関や高齢者施設を訪問する際に提示を求められていた衛生パス(注)が廃止されています。同法によりフランスへの渡航者はいかなる国・地域からでも入国時にワクチン接種証明や陰性証明などの入国書類を提示する必要はなくなりました。
・規制撤廃により今夏、フランス旅行への需要は爆発的な勢いで回復しており、すでに観光産業の収益はパンデミック前の水準を上回っています。AP通信によると、ユーロ安によって米国からの観光客が急増、英国など欧州各地からの観光客も増加しているようです。
フランス政府の試算によると、銀行カードの使用、宿泊施設やレストランでの収入データから、フランス国内の観光支出は2019年比で10%増加しているといいます。
・ロシアのウクライナ侵攻やそれに伴うロシアへの経済制裁でロシア人の観光客は皆無です。また、コロナ感染拡大が欧米より遅く始まり、海外旅行に依然として消極的なアジア諸国からの観光客は戻っていません。しかし、フランスはヨーロッパ西の真ん中に位置しているため国境は5つあり、イギリスにも電車の場合1時間程度で着きます。規制緩和もあり、隣国などからヨーロッパ人を中心にインバウンドを復活させているのです。
※フランスを訪れる50%以上の観光客はドイツ人、イギリス人、ベルギー人、イタリア人など隣国が中心となっている。
日本のインバウンド復活はいつなのか
・2019年度のインバウンド市場はおよそ5兆円とも言われていましたが、日本政府観光局(JNTO)が2022年6月15日に発表した2022年5月の訪日外国人数*(推計値)は、14万7000人でした。前年同月比では14倍となったものの、新型コロナウイルス感染症の影響が出る前の2019年同月比では94.7%減に相当します。
なお、2022年1月から5月までの累計は2019年比97.2%減(2020年比では344.7%増)の38万7100人となっています。
・日本政策投資銀行によると、新型コロナ終息後に旅行したい国ランキング、アジアでは日本が1位。また、アジア・欧米豪で12の国地域の海外旅行経験者を対象にしたアンケート調査では、新型コロナ終息後に海外旅行したい国として、日本はアジアでは1位、欧米豪では米国に次いで2位となっています。国籍別では、中国、香港、台湾、タイ人の6割超が訪日を希望しています。
・日本の観光客は7割がアジア圏とアフターコロナのインバウンド復活はまだ先のようにも見えます。しかし、中国のゼロコロナ対策も着々と緩和されてきている事、歴史的円安の恩恵もあり、日本国内の水際対策が完全撤廃となれば、インバウンドも大きく期待できるのではないでしょうか。
どちらにしろ、インバウンドの鍵は中国であることに変わりありません。
クルーズ船・航空共に需要は回復中
CCL(カーニバル)
株価は2022年10月3日時点
・2022年9月30日に発表された第3四半期の決算は売上高、一株当り利益率(EPS)、客室稼働率ともにコンセンサス予想を下回る結果になりました。今期の売上高は43億ドルと前期に比べて80%増、客室稼働率も15ポイント上昇し84%に達していますが、この回復ペースは市場が予測してたものよりも遅いペースです。
・今決算に関してCEOのジョシュ・ワインスタイン氏は「3億ドルを超える調整後EBITDAを達成し、8月航海の客室稼働率はほぼ90%に達し、当社の事業は引き続き好調に推移しています」と発表しました。調整後純損失は6.88億ドルとまだ赤字は続いています。
・旅客回復は予測よりはスローペースと言え、順調に回復していますが、アフターコロナ銘柄の宿命でもある巨額の債務やインフレによるコスト増のダブルパンチとなり株価は低迷しています。しかし、継続的な稼働率の改善が見込まれており、次期四半期でどれだけ巻き返すのか注目です。
DAL(デルタ・エアラインズ)
株価は2022年10月3日時点
・デルタ航空は4-6月期決算(第2四半期)を発表し、1株利益は当初の会社予想通りに黒字を回復したものの、市場予想には届きませんでした。売上高は、旅客運賃収入こそ予想を上回ったものの、全体的には予想範囲内に留まっています。一方、第3四半期については予想を上回る売上高を見込んでいます。
・同社は声明で「国内旅客収入は引き続き回復をリードし、国際線収入も加速している。2024年の目標である調整後1株利益7ドル以上、フリーキャッシュフロー40億ドルの達成に向けて順調に推移している」と述べるなど、旅客は着々と回復中であります。
・カーニバル同様にコスト増が今年一杯続き、引き続き強い旅行需要の重石になっています。また、航空各社はパンデミック後の安定した利益を取り戻そうとしているものの、経費高騰とフライトの乱れが運賃上昇、強い国内需要、海外旅行の増加という利点を生かすことを制限していることもあり、株価は厳しい評価となっています。
おわりに
インバウンド関連のテーマは、コロナ後の2020年末にワクチンが出来上がってから度々取り上げられてきましたが、その度にかなり買われてきました。
しかし、コロナ前の業績を取り戻せていない企業も多いため、高値更新している銘柄は少ないです。アドベンチャー・三越伊勢丹・帝国ホテルなどは株価が堅調ではありますが、他のアフターコロナ銘柄も同じように一括りとするのはやや強引かもしれません。
2019年に訪日した外国人観光客のうち、中国・韓国・台湾・香港からの観光客は全体の7割弱を占めていました。円安も追い風でありますが、先ずは中国などのアジアの動向が要注目と考えられます。
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※各種報道を基に筆者作成
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