証券3.0を実現する4つのキーファクター
前回の投稿では、証券1.0から2.0への変遷を整理したうえで、証券3.0は証券サービスが多様化する世界であるとし、同時に投資家が主役になると述べました。しかし、この解説では証券3.0はあくまでも概念の域を出ず、本当に実現するのか疑問に持たれた方もいるでしょう。
今回は、視点を「証券3.0を実現する」ことに移し、そのために何が必要なのかを整理していきます。この投稿を読み終わることで、証券3.0が単なる当社のマーケティングメッセージではなく、実現可能かつ、きわめて近い未来に実現されるとご理解いただけるでしょう。
証券3.0のKFS-1.証券システムのプラットフォーム化
前回の投稿でも触れましたが、証券3.0を実現するには証券事業の収支構造に抜本的な変化をもたらす必要があります。証券3.0は、小規模な投資家ニーズに対応した証券サービスでも事業として成立することが前提となるためです。
参考:証券3.0とは?
しかし、現状で証券事業に参入するには、システム構築だけで少なく見積もって10億円が必要となるのが現実で、「初期投資額を如何に少なくするのか?」が、最初の大きなハードルです。
しかも、2分の1程度のコストリダクションでは変化のスピードは遅く、現状は変わりません。一気に変えるには初期投資額をさらに引き下げ、より大きなインパクトをもたらすことが必要だと考えてます。
上記は十分実現可能で、ミドル・バックシステムをパッケージ化しプラットフォームとして提供するプレイヤーがいればよく、当社のBaaS(Brokerage as a Service)がその役割を担います。
これから証券事業へ参入する事業者はBaaSを活用することでミドル・バックシステムを構築する負荷から解放されるだけでなく、事業参入スピードを各段に早め、プロジェクトリスクを大幅に削減することが可能です。
証券3.0のKFS-2.フロントシステムのアンバンドル化
証券プラットフォームはミドル・バックシステムまで提供するものの、フロントは分離され、そして提供されるべきではありません。(アンバンドル化)
なぜならフロントに自由度がなければ、証券サービスの多様化が達成できません。プラットフォームはフロントサービスを提供しない代わりに、売買執行機能、ミドル・バック系のシステムに接続するAPIを提供することで、大幅なコストダウンと自由度が両立した証券フロントアプリケーション開発環境を実現します。
今後BaaS上では、ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析に特化した株取引アプリはもちろん、昨今クローズアップされているロボアドのような株取引アプリも容易に構築が可能です。そして今後は、AI、ソーシャルメディア、ゲーミフィケーションなど新しいテクノロジーや概念を包含する、これまでに見たこともない新しい株取引アプリが現出するでしょう。
証券3.0のKFS-3.ユーザ課題解決へのフォーカス
証券2.0は、規模の経済が働いたビジネスモデルであるが故、投資家の平均的なニーズに対応した画一的な証券システムを構築する必要がありました。規模拡大のためには、他事業からの顧客流入の促進、それができない場合は大規模なマスマーケティング、またはM&Aによる他社顧客ベースの獲得が基本的な戦略であったといえるでしょう。
対して証券3.0では投資家の平均的なニーズをとらえるものではなく、多様化した投資家ニーズをくみ取り、個々のニーズにマッチした証券サービスを開発する必要があります。そのため、市場をセグメント化した上でターゲティングし、サービスをポジショニングするようなこれまでのマーケティング戦略(STP戦略)には、限界があると容易に想像がつきます。
証券3.0においては、昨今話題となっているJOB理論のような、顕在的なニーズに対してではなく、ニーズの奥にある課題を見つけ、「これらを解決するサービスとは何か?」を考えていくような手法が有効でしょう。
スマートプラスがB2C向けに提供する証券サービス「STREAM(ストリーム)」はコミュニティ型株取引アプリを標榜しています。※1
なぜコミュニティだったのか?
これは「ユーザーはなぜ株取引から遠ざかってしまったのか?」また「口座開設に至っても取引しないユーザーがいるのはなぜか?」を徹底的に議論し尽くしたうえに発見したユーザー課題(ペイン)から導き出したソリューションです。(この詳細は別の機会にご説明したいと思います。)
これはあくまでも一例であり、全く別のアプローチもあるはずです。ユーザー課題の解決にフォーカスした証券サービス開発を行えば、これまでに見たことのない全く新しい証券サービスが生まれてくるでしょう。
※1 2018年6月時点:現在のSTREAMは株取引機能が制限されたSNS機能限定版となっています。
証券3.0のKFS-4. ユーザーフィードバックによるプロダクト改善
証券サービス開発において顕在化したニーズではなく、ユーザー課題にフォーカスするのであれば必然的にユーザーの声を傾聴することになります。初期ユーザーからのフィードバックをもとに細かにエンハンスを繰り返すことが必要となるでしょう。
当社でも、ユーザーフィードバックの傾聴から改善プロセスへつなげる体制を構築し、試行錯誤しながらエンハンスに取り組んでいます。
STREAM初期ユーザーとのコミュニケーションチャネルを確保し、多くのフィードバックを集約。寄せられたフィードバックを声の大きさ、プロダクトのコンセプト強化、実現容易性に基づき優先順位付けを行い、プロダクトの改善を行っています。
社内ではこの体制をCommunity to Development(C2D)と呼び、開発はもちろん、経営、マーケティング、カスタマーサポートと部門横断的なメンバーが参加する会議体を設置しています。ユーザーフィードバックはメンバー全員で毎週レビューされ、改善状況の進捗を管理しています。
参考1:STREAM ユーザーフィードバックの改善プロセスを公開
参考2:コミュニティ型株取引アプリ STREAM 改善ボード
到来する証券3.0の波
証券3.0を流行りの新しいキーワードと考える人もいるでしょう。しかし、それは決して新しいバズワードでもなければ、実現が遠いコンセプトでもありません。証券3.0は、証券サービスを多様化する、新しくも、今すぐに実現可能な枠組みなのです。
事実、この10年でクラウド化、プラットフォーム化といった変化は様々な業界に大きな影響を与えています。そしてそれは不可逆な潮流でした。お気づきの方もいるかもしれませんが、証券3.0はこれらの変化の波と同質であり、今になって証券業界に押し寄せているにすぎません。
証券3.0の波は徐々にスピードを速め、日本の投資環境に大きなインパクトをもたらすでしょう。